「自分史」への道案内

研究員の定員
国際教育総合文化研究所


 特別研究員または翻訳研究員を希望するかたは、「自分史:私が現在の私に至るまで」を書 いていただけると有り難いと思います。
 これが自分の文章力(Creative Writing, Critical Thinking))を鍛える土台・出発点になると思いますので。

 また小論文の書き方ですが、次のような「時系列」で次のような「書き方」をすると書きやすいかも知れない、と思いつきました。

1)生まれたときから現在までの「悩んだこと、怒ったこと」を時系列で書く
2)したがって、小学校→中学校→高校→専門学校(または大学、大学院)→就職(または職場)
3)したがって、怒りや不満の対象も、両親 → 学校・教師→ 社会・職場、というふうに変化していくかも知れません
4)また就職してからも、いくつもの仕事をもち、かつ職場もいくつか変わっていった場合、それも時系列で書いていくと書きやすいのではないでしょうか。

 いずれにしても、これを書いていただく理由は、皆さんの心にたまっている怒りや不満を思い切り吐き出してもらうことにあります。一種の「排毒・解毒作業」です。
 それは同時に、今後、私が皆さんを指導していくときの土台にもなります。
 したがって「良い文章」を書く必要はありません。むしろ大切なのは「質」より「量」です。思い切りたくさん書いて、思い切りたくさん吐き出してください。
 私が「40字40行の設定で、10枚以上」という条件を付けた理由もそこにあります。「多ければ多いほど良い」のです。
 「格好いい文章」を「格好よく書こう」とすると、思い切り自由に「量」をかけません。ひたすら「吐き出す」ことだけを念頭において、思い切り自由に書いてください。
 それが「鬱病」や「潰瘍性大腸炎」などの最も簡単な治療法にもなると思います。

 締め切りは特に設けません。「心に溜まっていたものをほぼ吐き出し終わった」と思ったときに、添付で送っていただければ結構です。


<解説> 

 研究所の目標のひとつ「論理的で分かりやすい文章を書く力(Logical Writing)を鍛える」ためには、まず「量を書く」ことができなければなりません。
 もちろん「下訳をする」あるいは「下訳を校正する」場合も同じです。


 この力をつけるための、いちばん簡単な方法は「過去形」で「量」を書いてみることです。「量」から「質」へ 、これが弁証法でいう「量質転換の法則」です。
 この力なしに、いきなり論理的な文章を書こうとしても、非常に難しいのです。
 なぜなら論文はふつう「現在形」で書かねばならず、この簡単そうな作文が一番むずかしいということが、私の指導体験から分かってきました。
 では「過去形」で文章を書くとしたらどんなテーマが書きやすいか、ということになります。そこで考え出されたのが「自分史:ことばと私」というテーマでした。


 この自分史は、論理的で分かりやすい文章を書くための基礎訓練として書いてもらうのだということは先述のとおりです。
 しかし実は、私が研究員を指導する際に「そのひとがどういう軌跡をたどって現在に至っているのか」を、私が知っていた方が指導の実も上がるという 意味も込められています。
 ですから、書いてもらった「自分史」は研究所内で公開することを前提にしていません。外部に公開することを前提にすると、伸び伸びと自由に自分を表現できなくなるからです。
 その点を念頭におきながら「自分史」に取り組んでいただきたいと思います。そうすれば「頭で考える」のではなく「手が考えさせてくれる」ということを実感してもらえるはずです。


 その点で下記の参考文献が役立つかも知れません。
(1)寺島隆吉『英語にとって教師とは何か』あすなろ社
(2)寺島隆吉『レポートの作文技術』(寺島メソッド「日本語教室」)あすなろ社


 なぜなら、(1)は英語嫌いだった私が、大学で「科学史・科学哲学」(とくに物理学史)を専攻し、どういうわけで「一番不得意な英語」の教師になったかの自分史を綴ったものだからです。
 しかも、高校の英語教師から大学の英語教師(岐阜大学教育学部「英語教育講座」)へと、自分でも不思議な奇跡を描いて現在に至っているので、それを読んでもらえば、「自分史」を書く一つのヒントになるかも知れません。

 また(2)は岐阜大学教育学部「英語教育講座」で「英語科教育法」という科目を担当し、英語教師の卵を育てる仕事をしながら、実はその指導の大半を、英語ではなく、「日本語を読むこと」「日本語を書くこと」に費やしてきた記録です。
 これを読んでいただければ、「頭で考える」のではなく「手が考えさせてくれる」ということを実感してもらえるはずです。私から卒論指導や修論指導を受けた学生が、そのことを本書で縷々(るる)綴っているからです。

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